神の名のもとに レビュー byうゆう

『神の名のもとに』メアリー・W・ウォーカー
矢沢聖子=訳 講談社文庫

約570ページ

外国のミステリー小説というよりジャンルとしてはサスペンスかな。

話を簡単にまとめると次のようになる。

武装したカルトがスクールバスをジャック、そして教団の敷地内に監禁してしまう。カルト教団は、さらった子供たちを世界の終わりに殉教者となるべき存在にしようとしている。
事件の犯人にして教団のリーダーのサミュエル・モーディカイを取材したことから、女性記者のモリー・ケイツが事件に立ち向かうこととなる。モリーが調査を進めていくうち、なぞに包まれていたサミュエル・モーディカイのことが明らかになっていき・・・

と、まあこんな感じだ。サスペンスは落ち(?)が大切のため、これ以上は話さない。ぜひ自分で結末を読んで欲しい。

それでは感想を話そうと思う。まず一言。
おもしろかった。
海外の現代の小説だとパトリシア・コーンウェルくらいしか読んだことがなく、海外小説にはなんとなく血なまぐさいイメージがあったのだがこの本は純粋に楽しめた。

モリーがサミュエル・モーディカイの過去を調べていく過程でのモリーと人とのやりとりが巧く書かれている。人物描写が巧いのだ。多くの人が出てくるのだが、ほとんどの人物に関して性質、表情、感情などが伝わってくる。登場人物同士の会話がテンポを生み出し、話全体を通してのリズムをも作り出している。一冊を通して重い空気なのだが、そのテンポのよさで、重くなりすぎないちょうどいい雰囲気となっている。

この作品の大きなテーマとして、強迫観念というものが存在している。人の持つ強迫観念がどのように人に影響を与えるのか、といったものだ。マイナスに作用するときもあれば、プラスに作用する時だってある。人間という存在の考察といった意味でも興味深い作品である。

いろいろ言ってきたが、私がこの作品で一番好きなのは、監禁された子供たちとバスの運転手である。極限状態の中で子供たちを安心させるために、バスの運転手は物語を話す。
陰惨になりがちな監禁された空間の描写の中で、運転手の物語が子供たちだけでなく読者の救いにもなる。
子供たちと運転手の心理描写は緻密に書かれている。
深まっていく運転手と子供たちの絆。ラストシーンは胸にぐっと来るだろう。涙腺の弱い人は注意が必要だ。

少し長めの小説だとは思うが、テンポのよさと飽きさせない構成で、あっという間に読めてしまうだろう。
読んで損はないと思う。一読をお勧めする。

神の名のもとに (講談社文庫)

神の名のもとに (講談社文庫)